いちじくの葉

中原中也

『未完詩篇』より

夏の午前よ、いちじくの葉よ、
葉は、乾いている、ねむげな色をして
風が吹くと揺れている、
よわい枝をもっている……

僕は(ねむ)ろうか……
電線は空を走る
その電線からのように遠く蝉は鳴いている

葉は乾いている、
風が吹いてくると揺れている
葉は葉で揺れ、枝としても揺れている

僕は睡ろうか……
空はしずかに青く、
陽は雲の中に這入(はい)っている、
電線は打つづいている
蝉の声は遠くでしている
懐かしきものみな去ると。

中原中也の詩